「はい………杉村くんの、卒業証書だよ。」
結局卒業式にすら出なかったけれど、無事に卒業は出来たらしい。
青褪めた顔で家を訪ねてきた担任から、有難くもない卒業証書を受け取る。
別に履歴書に書くのに必要な訳じゃないから要らないのに、なんとなくゴミにもしにくい存在。
そもそも卒業式とか卒業とか、すっかり忘れてた。
「あり、ありがとうございます………」
「いや、こっちこそ受け取ってくれてありがとう………」
死にそうな顔で担任はそう言いながら、チラチラと後ろで待機している三人を見ている。
愛永さんとオーナー、それとこの度オーナーとパートナーシップ制度を使って結婚したピーチさんの三人だ。
なんでこの三人が揃ってるかは分からない。
ピーチさんに至ってはわざわざ有休を取ったらしい。
何かあった時大変だろ?と頭を撫でられながら言われたけど、なんかあった時ってなんだろうか。
「じゃあこれで授与式は終わりねー。ここからは家族の時間だからー、先生はお帰りください。」
「は、はい!」
オーナーの許しが出ると、担任だった人はいそいそと家から出て行った。
卒業証書を渡しにわざわざ来るだなんてご苦労さまだなぁって思うけど、そこまでだ。
在学中はカースト上位の生徒ばかりの言う事を従順に聞いて、イジメを見て見ぬふり所か参加しちゃうような大人にそれ以上の感想を抱く義理もない。
実際あの人に何度か殴られたことあるし。
「さてみんなー、お出かけしようか。」
筒を開く気にもなれなくて愛永さんと二人でテーブルの上にクルクルと回して遊んでいたら、ニコニコといつもの笑顔でオーナーはそう言った。
おでかけ………。
「どこ行くんだ?」
「いやでーす」
「俺眠いからちぃちゃんと昼寝する。」
三者三様の回答に、オーナーはうんうんと上機嫌に頷く。
ピーチさん以外賛成してないけど、どこに上機嫌になる要素があったのだろうか。
オーナーのことは大好きだけど、やっぱりよく分からない。
「ここに四枚の招待状があります。俺達全員分の招待状ね。」
「ああ、キヨのか。そういやまだ式挙げてなかったな。」
どこからともなく四枚の封筒を出したオーナーの言葉に、ピーチさんだけは納得したように頷いた。
キヨって確か、東さんのあだ名だよな。
幼馴染だけで分かる何かがあるのだろうかろうかと思ったけれど、
いそいそとお昼寝する為にソファーベッドを準備していた愛永さんもよく分からないらしく首を傾げている。
「ちぃに説明しとくとー、きぃちゃんは結婚してるのー。
でもずっと結婚式挙げてなくて、漸く挙げる気になったみたい。きぃちゃんのお嫁さんの彩実(なつみ)ちゃんがねー。」
つまり、東さんじゃなくて東さんのお嫁さんの都合で挙げてなかったって事か。
そして今オーナーがトランプのように広げている四枚の封筒は、その結婚式の招待状………。
「それ、に、俺の分があっ、あるんですか?」
「そー。彩実ちゃんが是非にって。式の予定はまだ時間はあるけど、折角だし礼服を作ろう。」
「礼服を、つくる………」
結婚式の招待状なんて初めて貰って、それだけでもドキドキしてるのに礼服だなんて………。
いや、そりゃあマナーとして礼服は大事だけど、まだ高校を卒業したてのひよっこだ。
それなのに、一気にこんな、大人みたいな―――
「礼服は一式あって損は無いよー、ちぃ。これから先、こんな機会は増えて行くんだし。」
ついでにスーツも作ろうねと、オーナーは俺の頭を撫でながら優しくそう言った。
これから先、という言葉もまた、オーナーが言うとキラキラ輝いて聞こえる。
これから先の未来。
結婚式に呼ばれるような、人と関わりを持つ未来。
それは愛永さんとオーナーがくれた、かけがえのない宝物。
「そうだな。着る機会なんざ、自分が思ってるより増えてく。」
「ちぃちゃんの礼服姿………!可愛いだろうなぁ!」
「え?お前ら何他人事みたいに言ってんのー?」
クッションを抱えながらほのぼのとしてる愛永さんと台所の換気扇の下でタバコを吸っているピーチさんの言葉に、オーナーがビックリしたような顔をする。
愛永さんの驚き顔は可愛いなぁ。
「お前らもしかしてがくせー時代から散々お世話になってる我らがきぃちゃん先生と彩実大明神の結婚式に既製品で行くつもりー?アホなのー?」
大明神………
からかいの意味も込めているんだろうけど、わざわざそんな呼び方をする位だから、きっとオーナーにとって特別な人なんだろう。
オーナーの言葉に青褪めている愛永さんやピーチさんにとっても。
どんな人なんだろう?
会った事のない人に対して、ワクワクとした気持ちになる。
東さんのお嫁さんなんだから、きっと良い人なんだろう。
「さて問題です。俺はさっきなんて言いましたかー?」
「「「みんなでおでかけ」」」
「はい、正解ー!じゃあ準備してー!」
パンパンとオーナーが手を叩く音を合図に、皆で一斉に準備に取りかかる。
こんな一瞬が嬉しくて、かけがえなくて。
そしてとびきりキラキラしてる、俺だけのタカラモノだった。
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