結局、放課後の話はお世辞でもなんでもなく本気だったらしい。
目的地は二駅程行った所のゲームセンター。
個人でやっている所で、某複合型アミューズメント施設みたいに大きくないが、それでもそこそこ遊べる地元民お気に入りの場所だ。
クレーンゲームも幾つか種類があるので、それだけでも十分楽しめる。
「俺クレーンゲーム得意だし、何か取ってやるよ。何が良い?」
「んー………じゃあ、アレ。」
俺が指したのは最近映画にもなった女子に人気なカワイイ系キャラクター達。
男のクセにと思われるかもしれないが、可愛いものは可愛いから仕方ない。
俺は可愛いのが好きだ。
「お、これ知ってるー。どれが好きなんだ?」
流石真性陽キャ。
陰キャが女子向けカワイイ系キャラクターグッズを欲しがったにも関わらず、特にからかったりする事なく話を進めてくれる。
ほんと、性格イケメン過ぎるだろコイツ。
「えーっと………痛っ!」
俺の好きなキャラは居るだろうか。
ワクワクしながら機体を覗こうとした時、背後から思いっきり誰かに腕を引かれた。
しかも結構無理な方向に引かれたから、めちゃくちゃ痛い。
「誰だ………よ………」
文句言ってやろうと視線を向けると、そこに居たのは中学校のあの日まで親友だった例のアイツで。
明らかに怒りの感情が篭った瞳で睨まれて、恐怖で身体が震える。
なんで、コイツが此処に。
だってコイツの通う高校は、逆方向の筈じゃないか………
「やっと見付けた………」
唸るように言われて、腕を掴む掌に力が更に加わる。
痛い。
でもそれ以上に、こわい!
コイツに殴られた時、俺は平気そうな顔を保ったけど本当はめちゃくちゃ怖かったしめちゃくちゃショックだった。
アイツの言う事を聞かないと殴られるのかと、そんなにも格下に見られていたのかと。
「離せよ。俺のダチに何の用だ。」
あの日の恐怖が蘇って震えそうな身体だったが、今日一日ですっかり馴染んだ声と体温が支えてくれた。
アイツの手を引き剥がそうと掴んでくれた。
それだけで、不覚にも泣きそうになる。
「………ダチ?」
「そー。俺の【親友】なんだよ。てかマジで離せ、痛がってるだろ。」
「そうなのか?」
親友にまでなった覚えはないが、ここは話を合わせた方が無難だろう。
俺が必死に縦に頷けば、アイツはゆっくりと俺から手を離した。
自称親友が自由になった俺を庇うように前に立ってくれたから、情けなさと申し訳なさを覚えつつもありがたくその背中に隠してもらう事にする。
掴まれていた手首が尋常じゃなく痛い。
見ればアイツの指の形にくっきりと赤くなっていたから、これはまたカラフルになるかもしれないと苦しくなった。
「で?【俺の親友】に何の用だ?」
「………久しぶりに会ったから二人で話したいだけだ。退いてくれないか。」
アイツにどういう意図があれ、これは立派な暴力だと思う。
それなのに二人で話したいなんて、アイツは俺が言った言葉なんて何一つ気にしてないんだなと苦しくなった。
暴力に頼る奴の傍に居たくないって、俺言ったのに。
「ふざけんな………暴力振るうような奴と二人きりにさせる訳ねぇだろ。」
「暴力なんて振るってない!」
「馬鹿か。痕が付く程握ってんだぞ、暴力以外の何物でもないだろ。骨が折れてたらどうすんだ。」
アイツがその言葉にハッとしたような顔をしたけれど、出来ればこんな状態になる前に気付いて欲しかった。
そう言えばあの日の後も、顔を腫らした俺を見て何故か悲しそうな顔をしていた。
悲しいのも辛いのも俺なのに。
「大丈夫か?行こう。また今度取るから。」
「う、うん………」
自称親友な雰囲気イケメンは、アイツに掴まれていた方とは逆の手を優しく握ってくれた。
気遣ってくれた。
そんな些細な事にすら比べてしまう。
アイツは一度も、そんな気遣いを見せてくれた事は無かったなと。
「待って!」
「触んなっつってんだろ!これ以上コイツ傷付けて何がしてぇんだ!」
また伸ばされた掌の前に腕を出して、また庇ってくれる。
嗚呼、ダメな奴だな俺。
さっきから守ってもらってばかりだ。
面倒なことに巻き込んで、本当に申し訳ない。
「俺は………お前と話なんてしたくない!」
だから俺もハッキリと言わないと。
握られている掌にほんの少し力を込めて、アイツの顔をしっかりと見ながら言った。
また殴られるんじゃないかと怖いけど、これ以上優しいコイツを振り回してはいけないと思ったから。
「なんで………なんで!?俺確かにあの日お前のこと殴ったけど、謝っただろう!?」
「お前が謝ったら許さなきゃいけないの?身の程を弁えて?」
格下の俺が、どれだけ傷付いたとしても。
コイツにとっては謝罪にもなってない、言い訳じみた謝罪一つで終わりなんだろう。
中学の俺はホント、何のために頑張ってきたんだろう。
何のために、我慢してきたんだろう。
「違っ………!」
「違わないよ。でも俺は許さない。痛かったし辛かった。三年間ずっと、辛かった。」
俺の言葉に、またアイツは辛そうな顔をした。
嗚呼、ほんと被害者面が似合うよな。
これだとまるで俺が加害者で、コイツをイジメてるみたいじゃないか。
「行こう。これ以上、コイツの顔見たくない。」
繋がれていた手を引っ張って、その場から離れる。
逃げてるみたいってか実際逃げてるんだけど、でも誰かに見られると厄介だから。
いつだって、誰が見たって、コイツが正義なんだから。
自称親友もそれを察してくれたみたいで、何も言わずに着いて来てくれた。
踵を返す直前、アイツだけが何か言いたそうな顔をしていたけれど、何が言いたいのかなんて知りたくもなかった。
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