3-2

「こーうじ!おはよう!」

そうは思っても現実ではそう上手くいかないもので。
学校側の最寄駅に着いて改札を抜けた途端に、恐らく待ち伏せしていたのだろう町田さんに声を掛けられた。
その瞬間、コウジの眉根がギュッと寄る。
今多分、町田さんに対しての不快感で頭がいっぱいなんだろうと思う。

「コウジ。」

―――それが、すごく嫌だと思った。
ワガママでしかないけど、どんな感情であれコウジの頭の中が町田さんでいっぱいになるのは、嫌だ。
だから俺はコウジの名前を呼んで、制服の袖を軽く引っ張ることで注意を惹くことにした。
卑怯だろうが何だろうが、知るもんか。
コウジは俺の彼氏だし、俺もコウジの彼氏だから。

「ん?」
「行こ。遅刻する。」

………とはいえちょっと恥ずかしいから、気持ち早口で誤魔化す。
中途半端だな、俺。
でもそんなのでもコウジにとっては嬉しかったみたいで、いつもみたいに蜂蜜を溶かしたみたいな甘い瞳で俺と視線を合わせてくれる。
自分で言うのもなんだけど、俺が可愛くて仕方ないって顔。
更に自惚れるのならば、町田さんには絶対引き出せない、俺だけが引き出せる特別な表情だ。

「うん、そうだね。」
「ねぇ!邪魔しないでよ!」

コウジが俺の手を繋ごうとしたら、町田さんがめちゃくちゃ怒った顔で間に入ろうとしてきた。
それでも俺は負けじとコウジの手を掴み、町田さんが入って来ないようにぴったりと寄り添う。
以前、俺はコウジに守ってもらった。
笠原とはだいぶ状況が違うけど、でも俺だってあの時と同じようにコウジの傍で、コウジを守りたいと思うから。

「ねえ、康田くん昨日からホント邪魔なんだけど。私と弘慈の邪魔しないで。」
「何の事?俺もコウジも、恋人と一緒に居るだけなんだけど。」

キツく睨まれて、一瞬怯みそうになるけど頑張る。
可愛い人の睨み顔って、思った以上に迫力あるんだな。
………ちょっとどころじゃなくて、引くな。

「そーいうの止めてくれない?弘慈がホモみたいじゃん。失礼だと思わないの?」
「町田さんこそそういう言い方止めてくれない?俺と誠也はガチで付き合ってるし、その言い方自体が失礼。」
「だから!それがおかしいんじゃん!」

同性愛が嫌っていうのは個人の考え方だし、寧ろその考えの方が多数だとは思う。
けど、こうも【異常者】扱いされると流石に傷付くし悲しいし、まるで悪いことしてる気分になってしまう。
でも、本当に悪いことなんだろうかと思う。
人と違うこと、自分と違うこと。
そんなの、この世にいっぱい溢れてるのに。

「何もおかしくないよ。俺はコウジが好きで、コウジも俺が好き。それだけなんだから。」
「だからさぁ!!」

まだ何か言い募ろうとする町田さんは無視して、コウジを引っ張って学校へと足を進める。
結構強く引っ張ってるから、痛いかもしれないけど我慢して欲しい。
後でちゃんと謝るし治療もするから。

「ねぇ!待って!待ってよ!!」

昨日と同じように、声を荒げて着いてくる。
まぁ、目的地は一緒なんだから仕方ないとは思うけど、よく声が続くなって思うし、それの方こそ同性愛者の俺達よりも周りに迷惑かけてると思う。
………原因は挑発した俺だから、なんともだけど。
でも、ここまで言われる所以はないし!

「とーもや。」
「ん?」
「好きってちゃんと言ってくれて、ありがとう。」
「そんなの、何度だって言う!」

コウジが好き。
幼い恋なのかもしれない。
周りからしてみれば、おままごと以下に思えるのかもしれない。
でも俺達は俺達的に、周りの大人達を巻き込む位には真剣に交際してて。
だからこそ、俺にとってはそれは声を大にして言っても良い事実なんだ。

「うん。でもね、やっぱり嬉しい。」
「俺もいつも嬉しいって思ってる。」

コウジが態度で、言葉で。
いつも俺を好きだってちゃんと示してくれるから、いつだってコウジに喜ばせてもらってる。
だから俺も、コウジ程ではないにしてもちゃんと言葉と態度に出していくつもりだ。
それ位しか、出来ないのが辛いけど。

「良いんだよ。それが一番、嬉しいから。」

コウジがそう言って笑う。
まるで大人みたいな思考だなと、時々思う。
それでも俺は、そんなコウジも好きだ。
ただ弱くウジウジしていた俺をいつも支えてくれる、そんな大好きなコウジを支えたい。

人を好きになるって、難しい。
誰かの好きな人は、誰かの恋人だったりする。
でもだからって、好きな人を諦めることなんてできなくて。
多分町田さんだって、吉塚のストーカーだって、そうなんだろうと思う。
コウジは俺の恋人で、吉塚は高城の恋人で。
人を好きになること自体は、悪いことじゃないと思うんだ。

でも、でも。
自分の思い通りにならないからって、恋した人やその人の相手を肉体的にも精神的にも傷付けてしまうのは絶対に間違っていると思う。
それは報われた人間の傲慢だって言われたら、それまでだけど。
それでも人として、他人の尊厳を踏み躙ったり、他人を傷付けるべきじゃないし、そもそもそれで付き合えたとしても幸せになんかなれないと思う。
だってそうだろう?
無理矢理奪ったんだから、相手だって嫌々だろうし、同じことがまかり通るなら自分だって奪われるかもしれない。
疑心暗鬼ばかりで、嬉しいことなんて何もないと思うから。

「コウジ。」
「ん?」
「好き。好きだよ。」

きっとこんな風に、幸せな表情をさせることはできないと思うから。



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