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あの電話の主は一体何者なのだろうか。
【迎えの車】が来たのだが、ドラマとかでしか見たことないような左ハンドルの高級外車だし、
運転席から出てきた男はガタイが良くて手袋を嵌めて黒スーツをバッチリとキメた………
運転手というよりは、どう見てもカタギじゃない男で。

「兄貴から話は伺ってます。大翔くんは助手席に。」
「はーい!」

しかもそんな男が兄貴と呼ぶなんて、本気で嫌な予感しかしない。
逃げ出したいのに、俺らが車に乗るまでじっと男が見ているから逃げ出すことも敵わない。
他の奴らもここにきてやっとヤバさが分かったらしいけど、もうどうしようもない。
しかも後部座席に乗り込んだ瞬間手早くシートベルトまで装着されたら身動き一つ取ることも出来ない………
命を守る為の装置なのに、逆に命を脅かされている気分になる。

「あの、ゆうくん怒ってました?」
「いいえ。大翔くんには、何一つ。」

車が動き出したタイミングで転校生が男にそう聞いた。
【ゆうくん】は恐らくあの電話の男だろう。
その人は転校生には怒ってはいないらしい。
そう………転校生、には。
つまり俺達には怒っている可能性が高いということだ。
そりゃそうだ。
自分の恋人を笑い者にして楽しもうとしていたんだから。
冷静になって考えれば考える程、俺達だけがひたすらに悪い。
ただそれでも、ホッと安堵の息を漏らす転校生にはイライラとしてしまうのをやめられなかった。
お前は自分が良ければそれでいいのかよ。

「ですが大翔くんの顔を見たら多少は落ち着くと思いますよ。最近忙しくてすれ違い気味だったでしょう?」
「うん。一応ゆうくんが帰って来るまでは起きてるけどね。でも俺も限界で直ぐ寝ちゃうから………」
「そうみたいですね………今朝も申し訳ないと言ってましたよ。おさんどんにしたい訳じゃないのにと。」

………おさんどんって、なんだ?
転校生も運転している男も普通に話しているから、なんとなく聞きにくいし、そもそも聞いた所で答えてくれるとも思えない。
………というよりも、答えてくれないのは間違いないだろう。
今運転しながらも転校生との会話に和んでいる男にとって、俺達は何の価値もないのだから。

「着きましたよ。」

そこから10分経ったか経ってないかのタイミングで車が停まったのは、四階建てくらいのオフィスビルの駐車場だった。
一見するとどこにでもありそうなビルだけど、嫌な予感しかない。
男が俺達のシートベルトを黙々と外す中で、転校生がソワソワとしている。
恐らく彼氏の所に行きたいのだろう。
こっちは生きた心地がしねぇっていうのに、なんでそんなにノンキなんだと当たり散らしたくなる。

「行きましょう。兄貴は上でお待ちです。」

男の言葉に俺達は絶望し、転校生は目に見えてテンションが上がった………
かと思えば、何故か逆に困ったような顔をしている。
パクパクと何度か口を動かしたと思えば、辛そうな表情で俯く。
さっきまでソワソワしてたクセに、一体何なんだ?

「大丈夫ですよ、迎えに降りたらそのままどこかに行きそうだから上で待つように伝えただけです。そう忙しい訳ではありません。」

けれど男の言葉を聞いて、転校生はまた嬉しそうな顔を見せた。
どうやら何かに遠慮していたが、その憂いは男の言葉によって晴れたらしい。
学校ではほぼ無表情のクセに、なんでこんなにコロコロと表情を変えてるんだ?
何故か悔しさが込み上げてきて無意識に拳を握った瞬間、転校生と和やかに話していた男が突如俺達の方を見た。

「そこのビルの四階に居ます。先を歩きなさい。」

―――逃げられると思うなよ。
そう言われた訳ではないけれど、でも確かにそう言われた気がした。
それは意外にもあのノンキで空気読めない転校生も感じたらしい。
少し驚いたような顔をして、男の名前を呼んだ。

「大丈夫ですよ、大翔くん。例え忙しくても兄貴は貴方を負担に思ったりしない。」

けれども男はそう言って微笑み、けれど肝心なことは何も答えなかった。
転校生はそういうことじゃないと言いたげな顔をしたけれど、結局何も言わずに俺達の後ろを歩いた。
結局、転校生も俺達の敵だった。



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