………と、思っていたのは始まる前まで。
上映が開始されてしまえば何のことはない、スクリーンの中の世界に夢中になってしまった。
主人公は勿論格好良いし、何よりも俺の大好きな人は理想に程近くて最高だった。
まあ、所々あの人じゃない感はあったけど、前の映画の時よりは全然良かった。
寧ろ最高だった。格好良過ぎて惚れるかと思った。もう惚れてたけど。
エンディングの後の特別映像も観てホクホクと空っぽになったトレイを持って立ち上がり、思い出す。
「あ。」
「楽しかった?って、聞くまでもなかったかな。」
そういえば隣に、あきもとさん居たんだった。
興奮していた姿をばっちり観られたかもしれないと思うと、恥ずかしくて仕方ない。
思わず固まってしまった俺に、あきもとさんはニコニコと笑いながら何故か俺の持っていたトレイを取って自分の持っていたトレイに重ねてしまった。
「えっ!あっ!」
「どうせ俺もゴミ捨てたりトレイ返したりするんだしさ、ついでついで。」
そういう問題じゃないんだけど!
けれどもあきもとさんはさっさとトレイを持ってスクリーンから出ようとしていたので、俺は慌てて追いかける。
自分のゴミくらい自分で捨てるし、トレイだって俺が………というか何なら俺が彼のトレイとゴミを持つべきで………
「ねえ、この後ヒマ?」
「え?」
「折角だしさ、下のハンバーガー屋で飯でも食わない?」
まさかのお誘い!
えっ!?これアレ?
気を遣わせてる感じ?
どうせお前みたいなギーク、映画観終わった後喋り足りないんだろ?的な?
「ごめ、んなさい。俺、ちょっとこの後用事があって………」
用事なんて無いけど、でも気を遣わせておいて二人きりで顔突き合わせてハンバーガーっていうのもないだろ。
俺がひたすら嬉しいだけじゃん。
勘違いするわそんなん。
「………そっか。分かった。」
多分これも嘘ってバレてんだろうなって思うけど、それでも今回は嫌味無しに引いてくれたから助かった。
結局トレイもゴミも片付けてもらったし申し訳ないなと思うけれども、
実の所以前の好きだった人を未だ忘れられない状態で好みのタイプの男性と一緒に食事というのは、なかなかハードルが高過ぎる。
いや、どんな状況でもハードル高いけど。
「あの、じゃあさちょっとお願いがあるんだけど!」
「はい?」
え?まだ何かあるの?
ご飯断ったからプライド傷つけられた的な?
それはその、申し訳ないと思うけどでも気まずい思いしちゃうのより良くないか?
挙動不審にならない自信も無いし………
「連絡先、交換してくれない?」
「へ?え?なんで?」
マジで何で?
学部も違うしそもそもこの間食堂で会ったのが初対面で、知り合いでも何でもないのに………もしかして一度話せば友達族?
「迷惑かもしれないけど、俺、あしやくんと仲良くしたいなってずっと思ってて………ダメかな?」
きゅううんという擬音の付きそうなあのレトリバー顔でそんなことを言われたら、ダメですなんて言える筈もなく。
いやこれが普通に別の男性とかなら言えるかもしれないけど、モロに好みの顔なんだよ?言える訳なくない?
傷心中でさ、下心だってあるんだよ俺は。
「えっと、俺なんかで良いの………?」
「あしやくんが良いんだ。無理かな?」
そこまで言われて固辞することなんかできやしない。
結局俺は彼とメッセージアプリの連絡先を交換してしまった。
秋元燎平、漢字こうやって書くんだ。
てかこういうメッセージアプリでフルネームを表示させてる人って珍しいな。
「あしやくんは、名前何て言うの?」
「あ、陽斗(はると)です。芦谷陽斗。」
テストついでに漢字をメッセージに送りながら、そういえば東雲と門倉から名前を教えるなと言われていたなと思い出す。
やってしまった………メッセージアプリに表示させてる芦谷だけ教えれば良かった。
そもそもこれ連絡先交換自体しちゃいけないやつだったのでは?
でもしてしまったものは仕方ない。
「陽斗くん………良い名前だね。」
うおっ!まぶしっ!
本日一番の眩しい笑顔に、俺の目はとうとう潰れてしまったんじゃないかと不安になってしまう。
取り敢えずありがとうございますと礼だけ言って、俺はとっととその場を離れた。
一応、用事がある設定だしね。
このまま帰るだけだけど。
買ったパンフレットを抱えて、足早に映画館を出る。
今日一日で、いろんなもので胸がいっぱいになった。
所謂推しは百点満点ではなかったけれどもそれでも格好良かったし可愛かった。
犯罪者だけど、死ぬまでどうせ独りならあんな人と一度で良いから恋人………は流石に高望みか、愛人になってみたいものだ。
多分あの人はストレートだろうけど。
それに、緊張はしたけど秋元さんと話せて嬉しかった。
偶然とはいえ一緒に映画も観れたし、しかも使うことはないだろうけれど連絡先まで交換できてしまった。
消化するにはたくさん時間がかかりそうで、でもそれもまた楽しいのかもしれない。
まあどうせ秋元さん的には100%お世辞なんだろうけど、アイドルとの生トークしたみたいなそんなドキドキ感で俺はすっかり高揚してしまっていた。
「………陽斗?」
だから俺は気付かなかったんだ。
そんな俺を、遠くから見ていた人が居たんだってことに。
それが俺にとって会いたくて、でも一生会いたくなんてなかった人だって事にも。
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