メッセージなんて来ない。
そう思っていたのに、意外にも秋元さんは律儀な人だったらしく毎日のようにメッセージが届いた。
交換したからには、ということなのだろうか?
だとしたら義理堅い人だ。
無理をさせていないだろうかと思うけれど、こんな些細なやり取りが嬉しくてついつい返事をしてしまう。
そんな俺に東雲も門倉も呆れてはいたし心配そうな顔をされたけれど、俺が楽しそうならと特に何も言わないでいてくれた。
ただ一つ、戸惑うことがある。
『今日お昼ご飯、どこで食べるの?』
昼時になると、こんなメッセージが送られてくるのだ。
文面は違うけれど、大体こんな感じ。
最初は気付かず普通に答えていたけれど、どうやら一緒に食べれるか確認したいのだろうと気付いたのは何度目かのやりとりの時。
東雲達とではなく一人で食べている時、必ず教えた場所に秋元さんが現れるようになってからだ。
偶然ではないと気付いた時、俺は恥ずかしくなった。
こんなに気を遣わせてしまったのかと。
とはいえ今まで答えていたのにここでいきなり教えたくないですはおかしな話だし、なんだか自意識過剰な気がしてそれもまた恥ずかしい。
結局俺は散々悩んだ挙句、東雲達と極力飯を食うことにした。
決めてないなんて答えても、逆に気を遣わせるだろうし。
本当はカップルの間に挟まるとかしたくないんだけど、仕方ない。
「メッセージのやりとり止めたら?」
「でもこの質問がなければ楽しいんだよ。」
「………暴力さえ振るわなければ良い人なんですみたいなセリフね、それ。」
門倉からやりとりを見せて欲しいと言われたので、俺は素直にスマホごと渡す。
見られて困るようなやりとりはしてないし、データだって見られて困るものは入ってない。
電話帳だって東雲と門倉しか入ってないし、メッセージアプリのともだちリストも東雲と門倉と秋元さんしか入ってないボッチっぷり。
もはや東雲と門倉が俺の姉みたいな状態だ。
「………わぁお。芦谷くんよく我慢出来るね?」
「我慢?」
我慢させているのは俺の方では?
こんなボッチと映画館で鉢合わせたばかりに、俺とメッセージのやりとりをせざるを得なくなった訳だし。
会話の続かない陰キャだもんな………。
バイトもあってろくに返事出来てないし。
「なになに?」
「うるさくて逆に面白いよこのトークルーム。秋元クンが十以上喋って漸く芦谷くんが一返す感じ。」
「やだ、面白過ぎじゃない。ヤリチンモテ男も形無しね。」
「………東雲、ここ食堂だよ?」
何返していいか分かんなくて悩んでた内にメッセージが来て溜まっていっちゃうだけだし。
そもそも公共の場所でヤリチンなんて言っちゃダメでしょ。
ご飯中の人達だって居るんだよ!
「相変わらず下ネタ苦手ね。広い食堂の隅で小声で話してるんだもの、誰も気付かないわよ。」
「そうだそうだー!」
「そういう問題じゃ………」
「楽しそうだね、俺も混ぜてよ。」
小声は小声だけれどもより小さな声にして三人で顔を突き合わせて話していると、
すっかり耳に馴染んでしまった声が聞こえると同時に誰かが横に座った。
まぁ、誰かなんて聞かなくても分かる。
「………秋元さん?」
「なぁに、陽斗くん。」
噂をすればなんとやら。
俺の隣に座ったのは秋元さんだった。
変な話はしてないけど、格好良いよねとかそういう話をしていた時に来られるとなんだかバツが悪い。
そっと秋元さんの背後を覗き見れば、秋元さんがよく話をしているご友人の人達が何故か焦った様子でこっちを見ていた。
「えっと………別にそんなに気になるような話してないよ?」
「陽斗くんが話してる内容なら何でも気になるよ。何話してたか教えて?」
「男の嫉妬はみっともないわよ、秋元燎平クン?」
「………前も言ったと思うけど、俺は俺の友人である陽斗くんに話しかけてる訳で君達には話しかけてないんだよ。邪魔しないでくれる?」
俺の隣の席に完全に座って小首を傾げる秋元さんに、東雲が鼻で笑うようにそう言った。
前も思ったけど、東雲も門倉も秋元さんに対して当たりが強いよな………。
なんで?なんて、色んな意味で怖くて聞けないけど。
………ん?というか………
「友人?」
「そうだよ。一緒に映画観て連絡先交換してそれから毎日メッセージのやりとりしてるんだから、俺達友達だよね。」
確かに字面だけ見ると親しい友人だ………驚いた、そんな発想なかった。俺と彼は友達だったのか。
唖然としている俺に、秋元さんはそのままニコニコ笑顔だ。
眩しい………勘弁してください。
「お互いの名前も知ってて呼び合ってる訳だし、ね?」
眩しさのまま反射的に首を横に振ったが、俺はもしかしたらとんでもない事をしてしまったのかもしれない。
ちょっと意味が分からなくて東雲と門倉をチラ見すれば、今日イチの呆れ顔を拝ませてくれた。
………なんか、ゴメン。
俺が傷つかないようにしてくれてたのに。
そう思っていると何故か顎を掴まれて視線をしっかりと合わせられる。
え?なんでいきなり顎クイ?
え?ノンケなのに俺みたいな男にもすんの?陽キャのポテンシャルこわ………。
「まぁ折角なら、俺の名前呼んで欲しいなと思うけど………」
「ストップストップストーップ!!落ち着け燎平、アシヤくん怯えてるだろ!」
俺が陽キャというかパリピの強さに怯えていると、さっきまで少し離れた所で焦っていた秋元さんの友人が駆け寄って間に入ってくれた。
助かった………勘違いしまくる所だった。
「ごめんなアシヤくん!あと東雲さんと門倉さんも悪ぃ!三人で話してたのに!」
「ホントにね。」
「早く連れて帰ってくれる?」
東雲と門倉の言葉を聞いて、間に入ってくれた彼は秋元さんの腕を無理矢理引っ張って向こうに連れて行った。
ビックリした………めちゃくちゃドキドキした………。
ゲイ拗らせた陰キャには刺激が強すぎるわあんなの。
「離せ!一人で歩ける………陽斗くん!今度時間が合ったら遊ぼうね!二人で!」
「お前ちっとは懲りろ!」
二人がかりで瞬く間に引き摺られるように食堂から出て行く秋元さんからブンブンと手を振られたので取り敢えず振り返しながら、
先程までの騒がしさは一体何だったんだと唖然としてしまう。
ハッと我に返った時には食堂に居た全員から見られていて、俺は恥ずかしさと居た堪れなさに思わず俯いてしまった。
しまった………騒ぎ過ぎたし分相応に喋り過ぎた………
「陽キャのファンサ怖い………」
「ファンサ、ねぇ………。」
俺の言葉に何故か怪訝そうな顔で東雲はそう言ったのだけれど、俺は恥ずかしさからテーブルに突っ伏していたので分からなかった。
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