4-3

『後で、予定の無い休みの日を送ります。その後、都合のいい日を教えてください。』

そのメッセージを見た瞬間、俺は叫びだしたくなる程の衝撃を受けた。
バイト先だからと、咄嗟に口を覆って耐えた俺を是非とも褒めて欲しいレベルの衝撃………喜びの衝撃だった。
だってこれ、俺と会って遊んでくれるってことだろう?
嬉しい!
デート………ではないけれど、俺と二人だけで遊んでくれるってことはそれはもうデートじゃん!?

「ねえ燎平!今日バイト終わったら暇でしょ?遊ぼうよ!」

後でっていつだろう?
今時間的にご飯時だから、ご飯食べ終わってからとかかな?
そんな風に考えていたら、頭痛がする程の甘い匂いがして右腕に柔らかな感触が当たった。
楽しい気分に水を差された苛つきのままそこを見れば、以前ヤり捨てた女が俺の腕に胸を当てて絡みついていた。

「嫌。」
「えっ!?なんでぇ?」
「俺もう惚れた人とじゃないと遊びたくないから。真面目に口説いてる最中なんだよ、邪魔しないでくれる?」

絡みついている腕を乱暴に振り払いながらそう言えば、女は大袈裟によろめきながら短い悲鳴を上げた。
甲高い声が頭に響いて気持ちが悪い。
てか俺そもそも最初に彼女にする気ないから彼女面すんなって言ったのに、なんで馴れ馴れしく呼び捨てする上にまとわりついてくるんだよ。

「惚れた人って………誰よそれ!」
「お前に関係なくない?抱かれたかったら彼女面すんなって言ったろ。」

誰か、なんて。
言う必要もないし、仮に馬鹿正直に言ったところで陽斗くんに嫌がらせをするだろうということは目に見えて分かる。
………あまりにもうるせぇから抱いてやったのに、更にうるさくなるとか無しだろ。
それよりも変に勘ぐられて陽斗くんに危害加えられると困る………。

「で、でも!でも燎平抱いてくれたじゃん!」
「お前が抱かないと死んでやるって構内で騒ぐからだろ。抱いても良いけど彼女面しないって約束だったろうが!」

尚も縋ろうとする掌を叩き落とせば、わざとらくしく涙を流す。
俺はもう上がりだから別に良いけど、お前休憩中なんじゃねえの?
まだ勤務中なのにメイクぐちゃぐちゃだけど、良いの?

「なんでそんな酷いこと言うの?」
「酷いも何も事実だろ。言っとくけど、あの日の会話録音してるから。嘘ばらまいても困るのお前だぞ。」

コイツが虚言癖持ちだっていうのは有名な話で多分誰も信じないだろうが、念の為録音しておいて良かった。
スマホを目の前にひらひらとかざしてやれば、さっきまでぼろぼろ泣いていたくせに、ピタリと涙を止めて忌々しそうな顔をしてきた。
仕事があるのに嘘泣きでブスになってどうすんだよ。

「最低っ!」
「なんとでも。」
「アンタみたいな奴に惚れられた子が可哀想!振られちゃえば良いのよ!」

振られた腹いせがそれって、ガキかよ。
そもそも陽斗くんはお前みたいなビッチと違うし、まあ仮にビッチだとしても陽斗くんの誘いなら俺は喜んで乗るけども。
そもそも惚れた奴とそうじゃない………寧ろ嫌ってる奴との対応が違うなんて当たり前だろうが。
お前だってそうしてるだろ。

「仮に俺があの人に振られたとしても、俺は絶対にお前とは付き合わないけど。」

取り敢えず、これだけは釘を刺しておく。
陽斗くんを傷付けるような可能性は一ミリたりとも残したくはない。
そう思いながら俺は休憩室を後にする。

「お先でーす!」
「おう、おつかれー!」

すれ違ったバイト仲間や先輩に挨拶しながら陽斗くんからの返事はあるかとスマホを見てみたけど、
あれからほんの数分しか経ってないから当然返信はなくて。
もしかしたら俺と遊びに行くのが嫌になったのだろうか………。
そんな不安を抱きつつ、その不安を誤魔化すように足を動かす。

『アンタみたいな奴に惚れられた子が可哀想!』

さっきの女の罵倒が、頭を掠める。
俺自体が陽斗くんに相応しいか相応しくないかで言えば、多分相応しくないのだろう。
でも、それは俺が変わればいいだけの話だろう?
そうだよな?

陽斗くんは純朴な人だから、きっと俺が好きでもない女を抱いていたと分かると嫌がるかもしれない。
でもちゃんと、陽斗くんを口説くようになってからはそういうのは辞めた。
変わろうと思ったからというのもあるけれど、そもそも意味が無いから。

陽斗くんの代わりは誰にもなれない。
それなのに性欲ばかり優先させてると陽斗くんに嫌われてしまうから。

『もし行くとしたらどこに行きたい?』
『俺車あるから、遠出もできるよ!』

返事が無いのにもう行くつもりで計画を送っていく。
気持ち悪がられるだろうか?
でも折角デート出来るチャンスなんだ。
必死にだってなる。

陽斗くんはどんな服を着て来るんだろうか。
この間映画館で会った時の服も可愛かった。
でも。
でも出来ることならば、陽斗くんの頭の先からつま先までを俺がコーディネートした服やアクセサリーだけを身につけていて欲しい。

バイト代全部下ろして、陽斗くんに似合いそうなブランドの服屋に行こうか。
当日迎えるまでにある程度見繕っておくのもいいかもしれない。
あー、でも二人で一緒に選ぶのも悪くないな。

『どこ行きたいとかあったら教えてね!』

返事が来ないままだけど、だからって俺のワクワクは止まらない。
だって、漸くデートが出来るんだから。



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