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「そろそろ映画観に行きてぇんだけど、これってもんがねぇんだよな………」
「サブスク契約だったりDVD持ってたりしてないの?そういう時こそ以前のやつだよ。」

そこから切欠なのかなんなのか。
康介はすっかり砕けた口調で会話をするようになっていたし、俺も俺で気にせず言葉が出るようになった。
意外と話が合うし、それよりもなによりも思った以上に話やすい。
康介の最寄り駅まで車でもなかなかな距離だったが、なんの苦痛も感じることもなかった。

「あー、円盤派だから結構持ってるけど、止まらねえじゃん?」
「分かる。一日二日じゃ足りないよね。」
「だろ?時間を無駄に過ごしてる感じがするんだよなぁ………なあ、康介は―――」

休みの日どう過ごしている?
そう聞こうとした瞬間に、起動させていたカーナビが目的地到着を告げた。
………話足りない気がするが、仕方ない。
用意した【お試し期間】は三ヶ月もあるんだ。
まだ時間はある。

「なに?」
「いや、また明日聞くわ。明日も送ってくから。」

路肩に停めながら、一方的にそう告げる。
なんでコイツこんな不便な場所に住んでんだよって聞きたくなる位には不便だし遠い。
しかも整備されてないのか街頭も少なく過ぎて意味がないくらいには暗いし………男とか女とか関係なく危ない。

「いや、いいよ………ガソリン代が………」
「こんなクソ危ない所に一人で帰す方が気になる。不審者居ても気付けないくらいの暗さじゃねえか。」

怪我したとかそれ以上の事が起きたとかになってみろ、そっちの方が目覚めが悪い。
それに比べたらガソリン代の方が微々たるものだろと思いながらそう言えば、何故か逸らされる目。
おい、まさか………

「なんかあったのか?」
「い、いや………?別に………?」

誤魔化し下手かよ。
必死に目を逸らして誤魔化しにもならない誤魔化しをする康介に溜息が出るも、
まあ今の俺は恋人になりたての位置に居る訳だし、そもそも信頼関係なんて今日築き始めたくらいだ。

詰め寄る権利もないし、まだ康介の方が優位なのだから誤魔化されておくのがいいだろう。
未だシートベルトを外して逃げるということをしないのか思いつかないのか………
とにかく目を逸らしたままじっとしている康介の頭をぐしゃぐしゃに撫でてやり、大袈裟に溜息を吐いた。
………コイツの頭、掌に収まりが良いな。

「詰め寄られると困るか?」
「………ちょっと。」
「じゃあ我慢してやるから満足するまで送らせろ。」

関わってしまった以上心配はしてしまうし、何度も言うがなにかあった時に目覚めが悪い。
ズルいと言いたげな瞼にキスをしてやれば、大袈裟なくらい体が跳ねたけれど拒絶はされなかった。
てか俺、わりと普通にコイツにキス出来るんだな。

「なっ!て、手が早くないか!?」
「瞼だけだろうが。お望みならここにしてやるが?」

そっと唇を撫でてやれば、柔らかく触り心地がよくてクセになりそうだなと顔には出さないで驚く。
すげえカサついてるかと思ったけど、ちゃんと手入れしているらしい。
例の浮気した元カレのためか?

別れたのいつなんだ?
まだ未練あんの?
好きな奴ってソイツ?

マジでキスされると思ってんのか、ぎゅっと目を瞑ってシートベルトを握りしめる康介に対して、そんなアホみたいな疑問が浮かんでは消える。
ばっかじゃねえの、俺。

「いたっ!」
「本気にしてんじゃねぇよ。俺は紳士なんだよ。」

湧き上がった感情は、康介にデコピンをすることで誤魔化す。
勿体ないと思ってしまった気持ちは、見なかったことにする。
ちょっと位味見しても良かったかもしれないと思ったが、それこそ気の迷いだろう?
なぁ?

「………真の紳士は自分で名乗らないし、デコピンなんかしないんだよ。」
「そうか?デコピン好きな紳士だって居るかもしれねぇぞ?」

我ながら訳の分からないことを言いながら、そっと康介から離れる。
確かに男同士のセックスにも付き合いにも興味があったが、
それは俺に相応しい見目の良い奴でやることの話であって、こんな地味な男でやることの話ではなかった筈だ。
意外に居心地が好いから、勘違いしているだけ。
そうでなくてはならない。

「ほら。シートベルト外せ。家まで送ってやるのは我慢してやるよ。」

ここから家までの距離がどの程度あるのか分からないので心配ではあるが、
最初から家バレを嫌がっている素振りはあったのでそこは我慢してやることにする。
辺りを見渡しても先が見えない程に暗いのは、マジで心配になるけど。

「本当に明日も迎えに来るの?」
「当たり前。待たせたくなければ、残業するのも程々にな。」

最後にもう一度ぐしゃぐしゃと頭を撫で回し、シートベルトを外してやる。
思ったよりも近い距離から香るシトラスのような匂いに、不覚にも鼓動が跳ねた。



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