12

キスをしてから、我ながら開き直ったように思える。
俺が抱いてはいけない感情だとは、正直ちゃんと理解している。
騙そうとした訳だし。
でも未遂だし、騙そうとした事実は俺以外誰も知らないのだから、俺自身が口を噤んでいればバレる心配はない。
そりゃあいつから好きだったのかと聞かれたら答えられない状況ではあるが、それでも墓まで黙っている覚悟はある。

あの日以降もう一度だけ家デートをして、それも結局昼寝するだけに終わった。
バッカみてぇに健全。
中学生でももうちょいマシなデートするわ。

それでも俺も、勘違いじゃなければ康介も満足だった。

俺の持ってるBlu-rayの中から康介が好きなやつを選んで、ソファで寝転んだ康介の腕枕で俺も寝転んで微睡みながら観る。
観終わったら感想とかぽつぽつ語りながら、抱き締め合って夕方位まで眠って、起きてからガキみたいに辿々しいキスを繰り返した。

「かわいい」
「うるせぇ」

可愛いなんて言われたのは当然だが初めてで、明らかに馬鹿にされてるんだろうけれど、
それでも怒りなんて微塵も湧いてこなかったし、寧ろもっとと擦り寄ることすら自然にできた。
康介が本当に愛しそうな目で俺の頬を撫でるから、多分康介も康介でこの状況を楽しんでくれてるんだろうと思う。
多分、康介は甘やかすタイプの人間なんだろう。
そして俺自身知らなかったんだが、俺はどうも甘やかすタイプじゃなくて甘えるタイプの人間らしい。
どうりで今までの恋人とは付き合ってすぐの段階で喧嘩していたにも関わらず、康介とは全く喧嘩にならない訳だ。
利害の一致。
相性って大事だよな。

「着いてくる?トイレ行くだけだよ?」
「ん。」

起き上がって伸びをした康介がソファから降りようとしたので、なんとなく着いて行ってみようかと思いながら頷く。
そうすると康介は嫌そうな顔一つせず、寧ろ俺の手を引いてトイレへと向かってくれた。
ほんの数歩の道程ではあるが、どことなく抱いた不安感が飛散していく。

「流石に外で待っててね。」
「おう。」

俺を撫でてトイレに入った康介を、扉の横に座り込んで待つ。
今まで抱いたことないような感情に振り回されている気がするが、それも悪くないなと思った。

結局その日は、康介が帰るまでずっと後追いしてまわって終わった。

過去の俺が見たらドン引きする程に無駄な時間の使い方。
それでも康介はそんな俺を可愛いとかいい子だねとか沢山褒めては、俺の頬を優しく撫でた。
なんだコイツ。
人をダメにする男か。
ダメンズメーカーってやつか。

「耀司くん、おいで。」

膝を軽く叩きながら呼ばれるまま、俺は遠慮なく康介の膝に頭を乗せた。
コイツの甘やかしっぷりすげぇ。
二人きりだとこんなに甘やかしてくんのかよ。
前回が家デート初めてって言ってたけど、こんな居心地の良い空間を味わったことがねぇ元彼共マジで可哀想だろ。

「ずっとご飯食べてないけど、お腹空かない?」
「康介は?」
「ちょっと空いたかな。」

柔らかくはないがそこまで固くもない膝の上が、思ったよりも心地好くてまたウトウトとしだす。
………が、確かに朝からそんなに動いてないとはいえ、言われたら確かに腹が減った気がする。
でも外に出たくねぇ。

「何か作るか。」
「手伝うよ。」

確か冷蔵庫の中に昨日作った晩飯の残りと、あと一品作れる位の材料はあった筈。
そう思いながら膝に顔を埋めれば、康介が俺の髪を梳くように撫でながら言った。
一緒に、か………キッチン狭いしな………でも一緒にするとずっと傍に居れるしな………

「じゃあ一緒に作るか。」
「うん!」

名残惜しい気持ちで膝から離れれば、康介は嬉しそうに笑って立ち上がった。
もしかしたら、ずっとこうして誰かと料理作りたかったとかか?
そうだといいなと、ありきたりなことを思う。
だってそうだろう?
ずっと康介がやりたかったことを叶えるのが、他の誰でもない俺なんだから。

「まあ、昨日の残り温めるのがメインなんだが、いいか?」
「貰えるだけでもありがたいよ。ありがとう、耀司くん。」

康介がそう言って俺の頭を撫でる。
こんなにもストレートに褒められたのなんて、マジでガキの頃以来かもしれない。

「それも耀司くんが作ったの?」
「おう。」
「自炊もできて偉いね。僕もしなきゃとは思うけど、楽したいからコンビニとかスーパーのお惣菜に逃げちゃうや。」

そりゃあ普段から仕事遅くて残業ばっかりしてるからだろと思うが、不機嫌にしたい訳じゃないので口を噤んでおく。
それにしても、コイツ褒めるのと甘やかすのがホントに上手いな。
自炊っていっても拘ってる訳じゃないし、
切って炒めるだけだったり蒸し料理の皮を被った放置料理だったりするだけなんだが、すげぇ頑張ってるしよくできた気持ちになる。

「偉いだろ?ごほーびくれ。」
「何が良い?」

キョトンと首を傾げる康介の唇を食むように口付ける。
重ねた舌から啜った唾液は、味なんてする筈もないのに、それでもどこか甘かった。



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