3-1

「「じゃあ、行って来ます。」」
「行ってらっしゃい二人共!忘れ物は無い?」

母さんの声に大丈夫だと返事を返しながら、家を出る。
課題はコウジに手伝ってもらいながらやったし、準備だってちゃんとした。
………あの後、ヤろうとしたら兄ちゃんが入って来るんだもん。
結局何もデキなくてすっかり不貞腐れた俺を、コウジが何度もキスして宥めてくれたから大人しく課題に取り掛かることにした。
思い返せばコウジは大変だっていうのに、俺めっちゃワガママじゃん………

「誠也?どうしたの?」
「えっ、な、何が?」
「なんか悲しそうな顔してたから。」

心配そうな顔で覗き込まれていて、ドキッとする。
俺、そんなに分かりやすい顔してたのか。
グッと唇を噛み締めて、それでも正直に答える。
感情の隠し事はダメだって、俺もコウジも約束したから。

「俺、さ………」
「うん。」
「コウジが大変なのに、自分のことばっかりで嫌な奴だなって思って。」

あまり感情的にならないように気を付けながら、それでも思ったことをちゃんと口にする。
ここ外だし、そもそも感情的になったらコウジに気を遣わせるだけだし。
そうしたら、コウジはぎゅっと俺の手を握ってくれた。
気を遣わせたかなと思いつつコウジの顔を見れば、なんでかすごく嬉しそうに微笑んでた。

「俺は嬉しいよ。誠也にワガママ言ってもらえて。」
「うーん、そうじゃなくて………」

ワガママ言うのことに関して、コウジが良いよっていうんだったら言っても良いとは確かに思う。
でもTPOじゃないけどさ、言える状況ってあるじゃん?
それって多分、今じゃないんだよ。

「俺さ。」
「うん?」
「多分、誠也が思ってるよりも楽観的に考えてると思う。」

ぶんぶんと繋いだままの俺の手を振り回しながら、ちょっと困ったような顔でコウジは苦笑する。
こんなに嫌な目に遭って?
あんなにも変な執着のされ方されておきながら?

「誠也や誠也のご家族を巻き込んで言うべきじゃないけどさ、こうして一緒に暮らせることに浮かれてる。」

コウジから言われた言葉に、思わず足が止まる。
嫌だった訳じゃなくて、俺が思ってたこととまるで一緒で。
俺の心を見透かされたんじゃないかって、ドキッとしてしまった。

「引いた?」
「ううん。実は、俺もそう浮かれてた。」

ちょっと悲しそうな顔をしていたコウジに、俺は必死で頷いた。
一緒なのに、悲しい思いをさせたくない。
と、いうかコウジも浮かれたんだって思うと、すっごく嬉しい。

「ほんと?一緒?」
「うん!一緒!」

悲しそうな顔から一転、嬉しそうに目を細めて俺の唇を指で撫でてくれる。
嬉しい。
これ、好きなんだよな。
コウジが嬉しいのも嬉しいし、これしてもらうのも嬉しい。

本当は当事者であるコウジが楽観的なのも、保護してる立場の俺が浮かれてるのも良くないっていうのは分かってる。
吉塚がストーカーに襲われて危険な目に曝されたことは、俺達の記憶に新しい。
アレだって吉塚も高城もかなり警戒していたのに、一瞬の隙をついて起きたことだ。
コウジだって同じ目に遭ったり、もっともっと酷い目に遭ったりしないとも限らないから。

「一緒なの、嬉しいね。」

でもコウジがそう言って笑うから、俺にとっては多分、これが正解なんだと思う。



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