「………さて、まず一番大事なことを蘭と秋元に聞こうか。」
「はい。」
「ん?はい。」
東堂課長が足を組みながら、俺と秋元にそう言った。
ちなみに場所は空き会議室。
座ってるのは東堂課長と、座るように促された康介だけだ。
………秋元は立ってて当然だけど、何で俺まで立ってなきゃいけねぇんだよ。
「秋元と蘭、藤代くんと付き合ってるのはどっちなんだい?」
「俺っすけど。」
「俺です!」
何当たり前なこと聞いてんだと思いつつ答えると、何故か秋元まで主張してきた。
すると思ったけど、何でだよ。
さっきお前誰ですかって言われただろうが。
「おっと。モテモテだね、藤代は。で?藤代にとってはどっち?」
「どっちも何も、僕の恋人は蘭耀司さんです。」
………いつもの耀司くんも良いけど、耀司さんも良いな。
新婚さんみてぇ。
なんて、どうでも良いことを喜びつつも、即答してもらったことに思わず顔がにやけてしまう。
「ドヤ顔しないの、蘭。」
「はぁい」
ドヤ顔した覚えはないけどな。
でもまぁそこは素直に頷いて大人しくしておく。
ただでさえ業務に支障きたす程の迷惑かけてんのに、これ以上康介や俺の評価に傷付けたくないしな。
秋元?
知らん。
そもそもコイツが発端だろ。
………まぁ、俺が発端とも言えなくもないけど。
「秋元は?」
「………秋元さんがそちらの方だとなんとなく分かります。けど、正式にお名前を伺ったことはないですし、昨日初めてお見かけした位です。」
キッパリと康介が告げる言葉に、秋元の顔が苦痛に歪んだ。
まぁ、気持ちは分からんでもない。
どんな形であれ惚れてる奴に、そこまで言われたくはないよな。
だからといって押し掛けてくるのは別の話だけど。
「そんなこと!」
「じゃあ、貴方は僕とちゃんと喋ったことありましたか?」
この期に及んで未だに否定しようとする秋元に、康介がぴしゃりとそう言った。
その目には見た事ないほどに怒りの色が浮かんでいて、もしかしてさっきの管理課でのやりとりを根に持っているんだろうか。
目立つの嫌いなのにあの乱入で結構な騒ぎになったし、多分今頃噂になってるだろうしな。
「僕の好きなモノ、好きなこと知ってますか?嫌いなのは?ちなみに僕は名乗りもしないで知った口を叩いてくる人が大っ嫌いです。」
………俺より感情的になってんじゃねぇか。
まぁおかげで俺も冷静になれてるし、多分、予想以上にストレスと疲れが溜まってるんだろう。
藤堂課長と目を合わせ、少しだけ様子見をしておくことにする。
秋元が逆上して康介を傷付けようものなら、容赦しねぇけど。
「知った口だなんて!俺は君のことならなんでも知ってる!」
いや、それはそれでキモイ。
俺だって康介の知らねぇこと相当あるし、康介だって俺のこと知らねぇことばかりだ。
でもそれは他人だから仕方ないし、だからこそ面白くもある。
相手の“なんでも”知ってたら、新鮮味が何一つないだろう。
そもそも―――
「どうやって、“なんでも”を知るんだよ。」
様子見しようと決めた端から、思わず口から疑問が零れてしまう。
課長が呆れたような顔をしていたけど、出ちまったもんは仕方ない。
そして康介、小さく【確かに】って呟くんじゃねぇよ。
「ずっと康介を見てた!だから!」
「ずっと見てて?それで?何度も言いますが僕は話しかけられた記憶一回もないですけど。」
流石に気持ち悪そうな顔で、康介はそう言い捨てる。
康介って怒ると口調ちょっと荒くなるのな、とこれまた新しい発見をする。
可愛い。
が、怒らせないようにしとこ。
「………付き合ってるって本当に主張するなら、名乗って告白すべきでしょ?少なくとも、耀司くんはそうしてくれた。」
そういえば、康介に顔も名前も認知されてない状態からスタートしたんだよな。
二ヶ月しか経ってねぇのに、なんかめっちゃ前の話のような懐かしさ。
………本気で懐かしくなるまで付き合いてぇよなぁ。
「何度も言うけど、まず名を名乗れ!!」
言ってる内にイライラしてきたのか、康介がまるで怒鳴りつけるように急に大声を出すものだから、
そんな声出せるのかと俺も課長も、そして秋元も驚いてしまう。
おい、なんでも知ってるんじゃないのかよ秋元。
驚いてんじゃねぇぞバーカ。
「あ………」
「あ?」
「秋元、燎也です」
怒鳴られたショックからか、えらい素直に名乗ったな。
てかペン盗む暇あったらハナから名乗ってコミュニケーション取ってりゃ良かったんだよ。
上手くいけば康介と付き合えてたかもしれねぇのに………あ、それは嫌だな。
ダメだ、上手くいくな。
ぶっ飛ばすぞ。
「はい、秋元さん。はじめまして。」
「あ、はい!初めまして!」
あ、やっと初対面だったと認めたな。
反射的に思わず、といった感じの認め方ではあるが、それでも大事な証言だ。
実際、秋元の発言を聞いた瞬間課長の目の色が変わった。
「………やっぱり、初対面だったんだね。と、いうより秋元が一方的に知ってるだけって感じかな。」
厳しい目線で課長が秋元に確信めいた口調で問いかければ、秋元の肩が微かに跳ねた。
多分、自分でも分かり始めてはいたんだろうな。
自分の主張のおかしさに。
「俺は………」
拳を握りしめながら、秋元が口を開く。
一体何を、言い出すつもりか。
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